スポットワーカーと結ぶ労働契約のポイント
- 仲宗根 隼人
- 7月24日
- 読了時間: 5分
更新日:8月1日

~短期雇用でも求められる適正な契約管理~
近年、イベント運営、軽作業、飲食店の繁忙日対応など、1日単位・数時間単位で働く「スポットワーカー(短期アルバイト)」の活用が広がっています。求人マッチングアプリの普及もあり、企業と労働者が柔軟に結びつく時代ですが、スポットであっても「労働契約」である以上、事業主には一定の法的責任と義務が発生します。本コラムでは、スポットワーカーを雇用する際に注意すべき主なポイントを解説します。
1. 労働契約の成立と明示義務
スポットワーカーであっても、他の従業員と同様に「使用者の指揮命令の下で労務を提供し、その対価として賃金を受け取る」関係にある場合には、労働契約が成立します。たとえ契約期間が短期間であっても、労働基準法第15条に基づき、労働条件通知書や簡易な雇用契約書の様式を準備し、スポット雇用であっても適切に契約を取り交わすことが求められます。
特に留意すべきなのは、2025年9月からスポットワーク協会が導入を予定している新たな運用方針です。協会は、スポットワークサービスにおいて「労働者が求人に応募し、企業がそれを承諾(マッチング)した時点で『解約権留保付労働契約』が成立する」との前提で運用を行うことを公表しました。
この方針は、業界全体の共通ルールとして提示されるものであり、契約の法的性質を確定するものでも、直ちに企業に法的拘束力を及ぼすものでもありません。しかし、今後このルールに基づいた運用が業界内で広まれば、各プラットフォームの利用規約を通じて企業にも実質的な拘束が生じる可能性があります。また、未払い賃金のトラブル防止など、労務管理の適正化の観点から、企業側が一定の責任を負う運用が一般化する可能性も否定できません。
このような背景のもと、就業当日や前日に限らず、求人応募と企業側の承諾が成立した段階で労働契約上の拘束が発生し、一方的なキャンセルには法的リスクが伴う可能性がある点について、事業主として正しく理解しておくことが重要です。
なお、「解約権留保付労働契約」とは、特段の事情がある場合には双方の合意により契約を解除できるものの、原則として契約が成立しているという法的性質を有するものです。したがって、キャンセルの取扱いやその理由の説明責任、対応方法について、これまで以上に適切な労務管理体制の構築が求められるでしょう。
2. 解約(キャンセル)に関する留意点
上述のように、応募=契約成立という運用が一般化すれば、これまで曖昧だった「マッチング成立後のキャンセル」も、明確に契約違反とみなされる可能性が出てきます。
事業主側の都合による一方的なキャンセルは、損害賠償請求や信頼毀損につながりかねず、慎重な対応が求められます。「当日になっても労働者が来ない」「急に現場が不要になった」といったケースも起こり得ます。しかし、労働契約は合意によって成立するものであり、原則として一方的なキャンセルは認められません。
労働者側からの無断キャンセルについては、就業規則等に基づき対応を検討できますが、事業主側が契約成立後に「やっぱり来なくていい」と一方的に解約することは、債務不履行や損害賠償の問題につながる可能性があります。
特に、労働者が予定を調整していた場合や移動に費用を要した場合には、損害補償義務が生じ得るため、キャンセル対応のルールを事前に定めておくことが重要です。
3. 休業手当の適用可能性
スポットワーカーであっても、労働契約が成立していたにもかかわらず、使用者側の都合で就労させなかった場合には、労働基準法第26条に基づく休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う義務が生じる場合があります。
たとえば、「急きょ業務がなくなった」「雨天で中止になった」など、事業主の責めに帰すべき理由で休業させたと認定される場合は、注意が必要です。一方で、天災など不可抗力の場合は適用されないこともありますが、実務上の判断は慎重を要します。
4. 労働保険・社会保険の扱い
スポットワーカーの雇用でも、以下の点を確認しましょう。
労災保険:原則、すべての労働者が対象です。1日だけの雇用であっても適用されます。
雇用保険:週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合に加入対象になります。スポットでは多くが対象外ですが、反復継続的に就業している場合は判断に注意が必要です。
社会保険:原則、正社員の4分の3以上の勤務時間・日数で加入義務があります。スポットでは多くが該当しませんが、特定適用事業所では例外もあるため確認が必要です。
5. 労働条件の公平性と説明責任
短期雇用であっても、「待遇の公平性」や「就業ルールの明確化」は求められます。たとえば、同一業務で複数の労働者が働く場合、賃金や休憩に不公平がないか、また指示系統や就業ルールが曖昧でないかを確認しましょう。
また、就業前にきちんと口頭・書面で説明を行うことが、トラブル防止の第一歩です。
まとめ:スポットでも「雇用は雇用」、適切な管理が信頼につながる
スポットワーカーの活用は、事業運営の柔軟性を高める一方で、雇用主としての責任も変わりません。「短期だから」「1日だけだから」と軽視せず、労働法に基づいた契約と管理を徹底することが、トラブル回避、企業の信用向上につながります。労務管理はアクティア総合事務所にお気軽にご相談ください。