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企業責任としての熱中症対策 ― 厚生労働省キャンペーンと実務ポイント

  • 執筆者の写真: 仲宗根 隼人
    仲宗根 隼人
  • 5月9日
  • 読了時間: 4分

 沖縄の短い春が過ぎ、夏を迎えようとしていますね。近年の猛暑により、労働現場での熱中症リスクが急増しています。特に建設業、製造業、運輸業などの現場作業や高温環境下での業務では、熱中症が深刻な労働災害となり得ます。これを受けて、厚生労働省は2025年度も「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を展開し、企業に対して具体的な対策を呼びかけています。

 このキャンペーンの概要とともに、企業に求められる実務対応、さらに熱中症が発生した場合の法的責任について整理します。


■ 厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」

 このキャンペーンは5月から9月の期間中、企業に以下の3つの重点項目への取り組みを促しています。


①暑さ指数(WBGT)の把握と活用

 WBGT(湿球黒球温度)とは、気温、湿度、輻射熱などを総合的に評価する指標で、熱中症リスクの判断に有効とされています。企業は、作業環境のWBGT値を測定し、その値に応じた対策を講じることが求められます。温度計ではなく、暑さ指数を計測するWBGT計測器で測定することができます。


②熱中症のおそれがある労働者の早期発見と適切な対応

 労働者の健康状態を常に把握し、熱中症の兆候が見られた場合には、速やかに作業を中断し、適切な休憩や医療機関への搬送を行う体制の整備が重要です。


③特段の配慮が必要な労働者への対応

 糖尿病や高血圧など、熱中症のリスクが高い持病を持つ労働者に対しては、医師の意見を踏まえた上で、作業内容や時間の調整など、個別の配慮が求められますす。


また、2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則では、一定の条件下で熱中症予防措置が法的義務となり、WBGT値や気温が高い環境での作業については対応体制・手順の策定、全従業員への周知が必要になります。



■ 企業が実施すべき具体的な熱中症対策

企業が取るべき対策は以下の通りです

①作業環境の管理

・WBGT値の測定器を設置し、定期的に測定を行う。

・必要に応じて、遮熱シートの設置や換気の強化、冷房設備の導入など、作業環境の改善を図る。


②作業管理の工夫

・高温時間帯の作業を避け、早朝や夕方に作業をシフトする。

・作業時間を短縮し、こまめな休憩を取り入れる。

・水分や塩分の補給を促進するため、飲料水や経口補水液を常備する。


③教育と啓発

・熱中症の症状や予防方法について、定期的な研修やポスター掲示などを通じて周知を図る。

・労働者自身が体調の異変に気づきやすくするためのセルフチェックリストの導入。


④緊急時の対応体制の整備

・熱中症の疑いがある場合の連絡体制や対応手順を明確にし、全従業員に周知する。

・応急処置用の冷却材や医療機関の連絡先リストを備える。



■ 対策を怠った場合の企業責任

企業が熱中症対策を怠り、労働者が被災した場合、次のような法的責任が生じ得ます。

① 労働安全衛生法違反

労働者の健康を確保する義務(労働安全衛生法第22条)を怠ったとされれば、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

② 労災保険給付+費用徴収

業務起因での熱中症は労災認定の対象となります。企業に重大な過失がある場合は、政府が企業に対し「費用徴収」(給付金の一部請求)を行うことがあります。

③ 民法上の損害賠償責任

安全配慮義務(民法第415条)違反により、被災した労働者やその遺族から、損害賠償や慰謝料を請求される可能性があります。実際に、過去の裁判例では数百万円単位の賠償が命じられたケースも存在します。

④ 社会的信用の失墜

事故と企業名が公表されれば、取引先や求職者からの信頼を損ねてしまうことにつながり、企業評価の低下や取引減少につながっていく恐れがあります。


■ まとめ

 沖縄県では、毎年のように熱中症災害が発生しており、死亡するケースも少なくありません。熱中症は予防可能な災害です。企業が主体的に対策を講じることで、従業員の命を守るだけでなく、コンプライアンスの強化、企業価値の向上にもつながります。厚生労働省のキャンペーン資料やWBGTのガイドライン等を活用し、早急に実務の見直しを行いましょう。

沖縄 社会保険労務士: 社労士 、行政書士は アクティア総合事務所 |助成金、就業規則、企業様との顧問契約|那覇 社労士

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