事業主が知っておくべき「使用者責任」
- 仲宗根 隼人
- 3月20日
- 読了時間: 4分

事業主として従業員を雇用する際、理解しておかなければならない法律上の責任の一つに「使用者責任」があります。使用者責任の基本概念、事業主が負うリスク、そしてリスクを軽減するための取り組みについて解説します。
1. 使用者責任とは?
使用者責任とは、民法第715条に定められた「事業のために他人を使用する者(=使用者)」が、その使用する者(=労働者)が職務の執行に関して第三者に損害を与えた場合に、使用者がその損害を賠償しなければならない責任を指します。
民法第715条(使用者等の責任)
「ある事業のために他人を使用する者は、その事業の執行について被用者(従業員)が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及び事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生じたときは、この限りでない。」
この規定の趣旨は、事業を営む者がその利益を享受している以上、事業に関連して生じた損害についても責任を負うべきである、という考えに基づいています。
しかし、但し書きにあるように、使用者が従業員の選任や業務の監督において「相当の注意」を払っていた場合には、使用者責任を免れる可能性があります。つまり、適切な管理体制や教育・指導を行っていたことを証明できれば、責任を軽減できる場合があるという点も重要です。
使用者責任が成立する要件
使用者責任と認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
(1)事業のために使用する者(使用者)が存在すること
・企業や事業主が従業員を雇用していること。
(2)被用者(従業員)が事業の執行に関して行為したこと
・従業員が職務の範囲内で行動していること。
・業務遂行中の行為であること。
(3)第三者に損害を与えたこと
・物理的損害(交通事故など)や財産的損害(契約違反、不正行為など)が発生した
場合。
(4)職務の執行との関連性が認められること
・使用者の指示のもとで行われた行為であること。
・単なる個人的な行為ではなく、業務の一環であること。
また、使用者が「相当の注意を払っていた」と立証できれば、責任が軽減される可能性があります。逆に、何の管理も注意もせず、漠然と労働者を使用している中で労働者が第三者に損害を生じさせた場合は、使用者責任を問われ、損害を賠償する責任を問われる可能性があります。
2. 事業主が負うリスク
使用者責任が問われると、事業主は多方面に影響を受けます。
(1)社会的影響
・企業の信用が低下し、顧客や取引先からの信頼を失う。
・場合によっては報道され、ブランド価値が毀損する。
・不祥事がSNSなどで拡散し、炎上するリスクがある。
(2)経済的影響
・損害賠償の負担。
・裁判費用や弁護士費用の発生。
・業務停止や取引停止による売上減少。
例えば、従業員が不適切なSNS投稿をしたことで企業が炎上し、契約を打ち切られるケースもあります。事業主としては、こうしたリスクを想定し、事前に対策を講じることが不可欠です。
3. 使用者責任を軽減するための取り組み
事業主が使用者責任を軽減するためには、以下のような対策が有効です。
(1)従業員の教育・研修
・コンプライアンス研修:法令順守やハラスメント防止、個人情報保護に関する定期研修を実施。
・事故防止研修:運転業務のある従業員には交通安全教育を徹底。
・SNSリテラシー教育:企業の信用を守るための適切な情報発信ルールを周知。
(2)社内ルールの整備
・就業規則に「事故・不祥事発生時の対応」について明文化。
・職務範囲や業務手順を明確にし、従業員の責任を限定。
(3)労務管理の強化
・労働時間の適正管理を行い、長時間労働によるヒューマンエラーを防ぐ。
・パワハラ・セクハラ対策を徹底し、内部通報制度を整備。
(4)保険への加入
・企業賠償責任保険(PL保険):第三者への損害賠償に備える。
・役員賠償責任保険(D&O保険):経営者自身の賠償リスクをカバー。
これらの施策を講じることで、使用者責任によるダメージを最小限に抑えられる可能性があります。