沖縄県の夏は観光シーズン真っ盛りであるのと同時に、台風が多く発生する「台風シーズン」でもあります。今年は接近する回数が少ないですが、今週末は台風が沖縄本島を直撃しそうな予報になっていますね。
沖縄の企業にとって台風は年中行事のようなものですが、労務管理は適切になされているでしょうか。問題になりやすいのは、台風で休んだ場合の給与の処理です。「ノーワークノーペイの原則」に基づくと、仕事をしなかったのだから給与は支払われないとする取り扱いで問題ないように思えますが、台風による休業の場合そう単純ではありません。労働基準法や就業規則、関係する行政解釈の理解が重要です。
休業が事業主の都合で行われた場合
労働基準法第26条によると、事業主の責に帰すべき事由によって従業員が働けなかった場合は、平均賃金の60%以上を「休業手当」として支払う義務があります。事業主都合で休業した場合、事業主が支払うのは「給与」から、「休業手当」へと少し性質が変わります。
台風などの自然災害は、事業主の都合ではなく「不可抗力」に該当する可能性があります。この場合は事業主に休業手当の支払い義務が生じません。一方、台風の影響がそれほどないにもかかわらず、事業主の判断で休業とした場合には、休業手当の支払い義務が生じる可能性があります。例えば、暴風ではないものの、雨脚が強く来店客が見込めないことなどを理由に休業とした場合は、事業主都合の休業に該当する可能性が高いと言えます。
不可抗力の該当性
不可抗力に該当するかどうかで、休業手当の支払い義務の有無が分かれることになりますから、その判断基準が重要になりますね。
厚生労働省の「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」によると、以下の2つの要件を満たす場合は、ここでいう「不可抗力」に該当すると解されています。
①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
暴風警報が発令されたことによる休業は、この不可抗力に該当する可能性が高いと考えられます。
休業の判断基準
沖縄では、「バスが止まったら会社も休み」という労務管理をしている企業が少なくありません。私が過去に会社員だった頃、まさにこの扱いでした。朝イチのニュースでバスの運行状況をチェックし「始発から全便運休」のテロップが流れると、小さくガッツポーズをしてレンタルビデオ店に向かったウチナーンチュは私だけではないはずです。ところが時には困った事が起きます。台風の足がやたらと速く、午前中早々に暴風警報が解除され、バスも昼前には運行再開。こうなると「休んでていいのか?」と不安になり借りた映画にも集中できません。上司に電話し、終日休んでヨシとの判断を頂いて映画の続きを楽しんだのでした。
公共交通機関の運休を基準にすることは、労務管理上問題ではありませんが、何となく慣例的になされていたり、曖昧にされているとトラブルの原因になります。バスは運休になったとしても、モノレールは運行していることがありますし、暴風警報は発令されても、バスやモノレールはしばらく運行しているということもあります。台風は、その強度や移動速度によって状況が様々ですから、「バスが止まるかどうか」だけを基準にしていると、判断が難しい場面が生まれるのですね。
また、完全に指揮命令下から解放して休日とするのか、状況によっては出社を命じる自宅待機とするのかによっても対応は変わってきます。パートスタッフは休日として無給、社員は自宅待機として有給扱いとする労務管理もあり得ますし、業種によってはテレワークとする対応も可能でしょう。
就業規則への明記がトラブルを予防
台風の影響を想定すると、多くの「決めておいた方が良い事」が出てきます。例えば、次のような事柄が考えられます。
・休業とする基準
・所定勤務時間の途中や前後で休業基準に該当した場合の扱い
・休日と自宅待機の別
・連絡体制、方法
・休業した場合の振替勤務
・有給休暇の処理
・事前の台風対策
以上の他にも、業種によっては営業時間の変動、商品管理など様々な対応が求められることがありえます。パートスタッフと正社員、管理職で異なる対応が必要になることもあるでしょう。
労働基準法や労働契約法には、災害時勤務についての明確な規程はありません。
法に反しない範囲で、就業規則に明記しておくことがトラブル防止につながり、従業員もスムーズに対応することができます。就業規則に基づいて、分かりやすいフローチャートなどを用意し、認識を共有しておくことも大切です。
安全配慮義務との関係
暴風雨にもかかわらず勤務し、労働者が負傷してしまったとしたらどうでしょう。事業主の安全配慮義務を定める労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。
各種規程の整備もなく、災害時対応の社内ルールなど取り決めがなされていないまま勤務させ負傷してしまうと、使用者は安全配慮義務違反に問われてしまう可能性があります。労働者に損害が生じていると、損害賠償の問題になってしまいます。
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台風による休業 給与は?について、沖縄県那覇市の社会保険労務士、仲宗根隼人が解説しました。災害発生時の労務管理は、事業所に合った規程の整備と、労使間のルール共有が重要です。労務管理はアクティア総合事務所にお気軽にご相談ください。
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