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  • 執筆者の写真隼人 仲宗根

労災保険法⑤ 通勤災害

更新日:2023年11月27日

 労災保険では、業務上の傷病だけでなく、通勤に起因する負傷、疾病、傷害、死亡も保険給付の対象になります。通勤災害の定義は、「就業に関し住居と就業の場所との間の往復等を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除く」とされています。負傷・障害・死亡は、通勤に伴う危険が具体化した場合に通勤災害に該当します。例えば、通勤中の交通事故により負傷したり、死亡したりした場合が該当します。疾病の場合は、通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病をいいます。例えば、通勤中に有害ガスを吸引したため、呼吸器系の疾患を発症した、などが考えられます。


 「就業に関して」とは、往復行為が業務に就くことを目的として行われ、又は業務を終了したことにより行われることを要します。例えば、以下の場合は業務との関連性が認められると考えられます。

 ①寝過ごしによる遅刻など、時刻に若干の前後があった場合

 ②住居間移動における、赴任先住居から帰省先住居への異動が、業務に従事した当日またはその翌日に行われた場合(翌々日以降に行われた場合は、天災や交通機関の状況等の合理的理由が求められる)


 以下の場合は、就業との関連性が認められないと考えられます。

 ①運動部の練習に参加する目的で、所定の就業時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合


 「合理的な経路及び方法」とは、住居と就業場所との間を往復する場合に一般に労働者が用いるものと認められるものをいいます。例えば、以下の場合は合理的経路・方法と認められると考えられます。

 ①通常利用する経路が2~3程度ある場合、交通事情等に応じて選択した経路を行く場合

 ②子供を託児所や親せき等にあずけるためにとる経路

 

 レアケースですが、うっかり運転免許の更新を忘れ、無免許運転となっていたはどうでしょう。この場合は、必ずしも合理性が否定されるものではありません。(一部給付制限が行われる可能性はあります)これに対して、一度も免許を取得したことのな者が自動車を運転して通勤する場合は、合理性が否定されます。


 通勤中であっても、「業務の性質を有するものは除かれる」とは、通勤の要件を満たす往復行為であっても、業務の性質があるものは業務災害として扱われるということです。例えば、本来の出勤時刻より前に、上司の命令により早めに出社を命じられて家を出て事故にあった場合、通勤災害ではなく業務災害となるということです。


 通勤の途中において、就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をはずれたり(逸脱)、通勤とは関係のない行為を行った(中断)場合はどうでしょうか。原則として、これら逸脱・中断に該当した場合は、それ以後は通勤とは認められません。例外的に、逸脱・中断が日常生活上必要な行為であって、厚労省令で定めるものを、やむを得ない事由により行うための必要最小限度である場合は、逸脱・中断中は通勤とは認められないが、合理的経路に復した後は通勤と認められます。


 日常生活上必要な行為とは、以下のものが省令で定められています。

①日用品の購入その他これに準ずる行為

②公共職業能力開発施設において行われる職業訓練、学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練で職業能力の開発向上に資するものを受ける行為(華道教室などの趣味的のもの、自動車教習所、予備校などはこれに該当しない)

③選挙権の行使その他これに準ずる行為

④病院又は診療所において診察又は治療をうけること

⑤要介護状態(2週間以上の期間)にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的又は反復して行われるものに限る)


 通勤中に、以上に該当しない行為を行った場合は、その後に通勤経路に復したとしても通勤とは認められません。通勤中に交通事故にあうことや、転倒して負傷してしまうことは誰にでも起こりうることです。労働者は、就業時間の前後にいろいろな目的をもって行動しますが、場合によっては労災保険の対象にならないこともありえます。

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